2017年にトヨタ自動車の男性社員=当時(28)=が自殺したのは、上司のパワーハラスメントで適応障害を発症したのが原因として労災認定された問題をめぐり、同社がパワハラと自殺の因果関係を認め、遺族側と和解したことが分かった。豊田章男社長が遺族に直接謝罪した。
(6月8日付各社報道)
1 パワハラ内容
2016年4月、直属上司の「ばか」「こんな説明ができないなら死んだ方がいい」とパワハラが始まる。毎日のように罵声が続く。
常に高圧的で「なめてんのか、やる気あるの」と発言。
地方大学から東京大大学院に進んだ男性を「学歴ロンダリングだからこんなことも分からないんや」と侮辱した。
2 休職から職場復帰、自殺に至るまで
2016年7月~10月 休職。
その後、職場復帰したものの、問題発言が社内で共有されていなかったため、再び同じ上司の下で働くことになる。復帰当初は離れていた席も後にそばに移される。
男性は「上司が廊下でぶつかるようなしぐさをしてくる」「目線が気になる」と話すようになった。
「もう精神あかんわ」と漏らした約4か月後、2017年10月30日に社員寮の自室で自殺した。
3 労災認定と社長の謝罪、和解内容
2019年9月、豊田労働基準監督署(愛知)が労災認定。
同年11月半ばすぎ、労災認定が報道され、豊田社長は初めて事態を把握。10日後に遺族に直接謝罪し、トップダウンで原因究明を指示。
2021年4月7日、和解成立。解決金額は非公表。
和解条項のポイントは以下のとおり。
- トヨタは、男性が上司のパワハラを執拗に受け、適応障害となり、非業の死を遂げたことを認める。
- 自殺は、トヨタが上司の監督を怠った結果であり、安全配慮義務違反が原因だと認める。
- トヨタは、男性が前途有望な社員で、高い向上心で誠実に勤務したことを高く評価し、深い敬意と感謝の意を表する。
- トヨタは、男性を死に至らせ、遺族らに深い悲しみと重大な精神的苦痛を負わせたことについて、男性と遺族らに謝罪する。
<本件の論点>
本件では以下のようなさまざまな論点が含まれ、それぞれ重要な問題であると思われる。
- パワハラ防止に向けた問題(2020年6月施行のパワハラ防止法など)
- コンプライアンスの問題(初動の立ち遅れ。情報共有のなさ)
- リスクマネジメント(問題把握後の社長の対応)
- ビジネスと人権(ESG(環境・社会・企業統治)、企業の人権侵害に対する投資家の厳しい視線)
<さいごに>
今回のような悲惨な事件が二度と起こらないようにするため、パワハラ防止に向けて、できる限りのことをしていきたいと思う。